会長声明・意見

検察官の独立性に対する尊重を求めるとともに、検事長の勤務を延長させる閣議決定の撤回を求め、国家公務員法等の一部を改正する法律案に反対する会長声明

2020年(令和2年)4月23日
山口県弁護士会
会長 上 田 和 義
1、検察官の定年を延長させる令和2年1月31日付閣議決定
 政府は、本年1月31日、同年2月7日で定年退官する予定であった東京高等検察庁黒川弘務検事長につき、国家公務員法第81条の3を適用して同年8月7日まで勤務を延長させることを閣議決定した(以下「本閣議決定」という。)。
2、検察庁法と国家公務員法の関係
確かに検察官も国家公務員であるから、一見すると国家公務員法を適用できそうである。
 しかし、検察官の定年については、検察庁法が、検事総長は65歳、その他の検察官は63歳と定めている(第22条)。しかも、同条が検察官の職務と責任の特殊性に基づいて国家公務員法の特例として定められたものであることは、検察庁法第32条の2に明記されている。
 定年に関し、検察庁法が検察官に適用される特別の法律(特別法)である以上、国家公務員法第81条の3を検察官に適用することはできない。昭和56年に国家公務員の定年とその延長を定めた国家公務員法改正案が審議された際、当時の衆議院内閣委員会において、政府(人事院)は検察官の定年については国家公務員法の定年延長を含む定年制が検察庁法により適用除外されている旨を答弁しており、実務上もこの解釈が確立してきた。
3、検察官の独立性の重要性と本閣議決定の違法性
 検察庁法の定年に関する規定が国家公務員法の特別法として制定され、適用除外についての解釈が確立されてきたのは、検察が準司法的作用を有しており、検察官の政府に対する独立性を確保する必要があるからである。具体的にいえば、検察官は、警察を指揮し、被疑者を起訴するかどうかを決定し、起訴後は刑事裁判の当事者となる等、行政機関の一員でありながら司法的作用を担っているのである。さらに、憲法75条は「国務大臣は、その在任中、内閣総理大臣の同意がなければ、訴追されない。但し、これがため、訴追の権利は、害されない。」と定めており、検察官の行使する準司法的作用が国務大臣にも及ぶことを前提としている。
 そして、検察が準司法的作用を有する機関である以上、立法・行政・司法の三権を分立させる憲法秩序の下において検察官の独立性は極めて重要であり、政府によって尊重されなければならない。だからこそ、検察官はその他の国家公務員と同列に扱うことはできず、その定年に国家公務員法の適用がないと解釈されてきたのである。この解釈を揺るがすことは三権分立を定める憲法秩序に対する重大な脅威となる。
 このように、本閣議決定が検察官に国家公務員法第81条の3を適用できると解釈したうえ、実際に適用したことは、検察庁法第22条及び第32条の2に違反し、法の支配と権力分立を揺るがすものであって、許されない。
4、国家公務員法等の一部を改正する法律案について
 政府は、本年3月13日、検察庁法の一部改正を含む国家公務員法等の一部を改正する法律案を閣議決定し、国会へ提出した。検察庁法の改正案は、① すべての検察官の定年を現行の63歳から65歳に段階的に引き上げること、② 検事総長を補佐する最高検察庁次長検事や、各地の高等検察庁の検事長、各地の地方検察庁の検事正などの役職に就任できるのは63歳に達する日までであること(いわゆる役職定年制)、③ 但し、内閣又は法務大臣が定める事由があると認めるときは63歳以降もこれらの役職を続けることができることを内容として含む。
 しかし、このような法改正をしたからといって、本閣議決定の違法性が解消されるものではない。
 加えて、内閣又は法務大臣が定める事由により特例的に勤務の延長を認めるこの改正案が、最高検察庁次長検事などの役職人事に政府の介入を認めるものであって、検察官の独立性をより強く侵害し、三権分立を定める憲法秩序を脅かすものであることは、本閣議決定と同様である。
5、以上の理由により、当会は、政府に対し、検察官の独立性に対する尊重を求めるとともに、本閣議決定の撤回を求め、国家公務員法等の一部を改正する法律案のうち検察官の勤務延長にかかる特例措置の部分に反対するものである。
以 上