高齢者・障がい者Q&A

高齢者・障がい者Q&A

よくある疑問やお悩みにお応えします。

成年後見や相続,消費者被害や高齢者虐待など
高齢者・障がい者の権利擁護のための制度についてご説明します。




成年後見・財産管理

Q

「成年後見制度とは」

成年後見制度とはどのような制度なのでしょうか。

成年後見制度は,認知症,知的障がい,精神障がいなどにより判断能力が不十分な方(本人)の財産や権利を保護し,本人を法律的に支援することを目的とした制度で,法定後見制度と任意後見制度があります。法定後見制度は,判断能力の程度に応じて,家庭裁判所から選任された成年後見人,保佐人,補助人が,その権限に応じて,判断能力の不十分な方の生活を支援していく制度です。任意後見制度は,将来判断能力が不十分になった場合に備えて,予め信頼できる人(任意後見人)に支援内容を契約により委任しておき,その後実際に判断能力が不十分となったときに,家庭裁判所が任意後見監督人を選任することで開始される制度です。

Q

「成年後見人等の職務」

成年後見人、保佐人、補助人は何をしてくれるのでしょうか。

成年後見人は,財産に関する法律行為(契約等)について包括的に代理する権限を有し,本人の行った行為を取消すこともできます。保佐人は,民法第13条1項に定めている行為(重要な行為を列挙)について同意権・取消権を有し,さらに,家庭裁判所への申立てにより,同意権・取消権の範囲を拡張したり,特定の法律行為について代理権を有することもあります。補助人については,家庭裁判所への申立てにより,民法第13条1項に定めている法律行為の一部について同意権・取消権を有したり,特定の法律行為について代理権を有したりします。なお,いずれの類型でも,本人の行った日常生活に関する行為を取消すことはできません。

Q

「任意後見契約」

任意後見とはどのような制度ですか。

任意後見制度は,本人がその信頼できる者に対し、本人が精神上の障がいがいにより判断能力が不十分となった場合に備えて,本人の生活や療養看護や財産管理に関する事務の全部又は一部を委託するものです。この委託の契約(任意後見契約)は,これらの事務を委託された者(任意後見受任者)と本人(委任者)との間で公正証書によります。任意後見契約は,本人の判断能力が不十分になったときに,家庭裁判所に任意後見監督人を選ぶよう申し立て,任意後見監督人が選ばれて初めて効力が発生します。任意後見契約の効力が発生すると,任意後見受任者が任意後見人として,任意後見契約により本人から委託された事務について,本人の代理人となります。家庭裁判所に成年後見の開始を申し立てる場合(法定後見制度)と比べて,①本人が信頼する者を本人の後見人にできること②成年後見人の代理権の範囲を契約で定められること③後見の事務にあたって本人の意思を尊重できることがメリットとなります。なお,任意後見人は,取消権を持ちませんので,本人の消費者被害については,契約取消では対抗できません。消費者問題を規制する法律を使って対抗することになります。

Q

「財産管理契約」

財産管理を委任する契約があると聞いたのですが、どのような制度でしょうか。

財産管理契約とは,弁護士が,預貯金の管理,不動産の管理等について,また各種契約を結ぶ際に,本人に助言等を行ったり,本人を代理するなどして,依頼者の財産全般の管理を行う内容の契約です。契約ですので依頼者には自らの財産状況やどのようなことを依頼するのかについて認識があり,また物事を決めるについて判断する能力があることが前提になります。高齢者や精神・身体障がいをお持ちで,財産管理がおぼつかない方,財産を無くしてしまうのではないか心配な方,不動産の管理に不安のある方のために,依頼を受けた弁護士が,依頼者と共に,あるいは依頼者に代わって財産管理を行って行く制度です。

Q

「医療同意」

認知症の人の成年後見人をしています。本人は入院をしており、手術をする可能性もあるそうです。どのような手続きをとれば本人に対する医療行為を行うことができるのでしょうか。

後見人が医療契約,そして費用の支払いを行うことで,本人は通常一般的な医療行為(比較的危険を伴わない医療行為)を受けることができます。しかし,本人のためになることだと考えられても,健康診断の強制や入院の強制等,身体に対する強制行為はできません。またご質問では手術の可能性があるということですが,成年後見人には医療同意権は現在のところ認められていません。そのため,後見人に対し,医療機関が手術(医的侵襲)について決定や同意を求めてきた場合には,そうした同意権を有しないことを説明して,医療機関による緊急な対応としての手術ないし医療行為を求めることになります。


消費者被害・高齢者虐待

Q

「契約の解除・取消」

母が訪問販売で床下調湿剤なるものを大量に購入していました。支払額も250万円もの高額なものでした。契約を解約したいのですが。

すぐに,クーリング・オフの通知を書面で出してください。訪問販売の場合,契約書面を受け取ってから8日以内という制限がありますが,契約書面に不備やクーリング・オフ妨害があれば,8日間を過ぎていてもクーリング・オフはなお可能です。賠償金や違約金を支払う必要はありません。また,商品の引き取り費用は業者が負担します。さらに,既に払ってしまったお金も返してもらうことができます。クーリング・オフ出来ない場合であっても,事業者が契約勧誘の時に,事実と異なることを話したり,重要事項で告げていなかったりした場合,契約の取消を主張することができます。また,契約について思い違いがあったとして錯誤で無効であると主張することもできます。だまされて契約を締結した場合は,詐欺による契約の取消を主張することができます。さらに,訪問販売において,日常生活に必要な分量を著しく超える商品を購入した場合は,契約締結日から1年以内であれば,契約を解除することができます。

Q

「消費者被害を発見したら」

高齢者のヘルパーをしています。自宅を訪問すると,部屋に見慣れない大きな包みが置いてありました。本人と開けてみると中から布団セットが出てきました。本人は知らないと言うので,家の押入を見てみると,中には包みを開けてない布団セットがもう2つありました。本人と一緒に調べてみるといつも保険証やお金などを入れている菓子箱の中に契約書が3通入っていました。どのような対応をすればよいでしょうか。

本人と話をして本人がお住まいの地にある消費生活センターに相談してみてください。消費生活センターの相談は,電話でも受け付けてもらえ,相談費用は無料です。業者との示談あっせんをしてもらうこともできます。(自宅まで来て相談に乗ってくれるセンターも全国ではいくつかあるようですので,自宅まで来てもらえるかどうかは各センターに問い合わせてみて下さい)。 高齢の方の場合,認知症などのために本人が商品購入の事情を説明できないというような場合もあります。その場合は,関係のありそうな資料をできるだけ集めて相談するのがよいでしょう。その人の判断能力の低下が疑われる場合は,成年後見制度の利用も考える必要があります。これは地域包括支援センターに相談してみるのがよいでしょう。地域包括支援センターは消費者相談も受けてもらえますので,最初に地域包括支援センターに相談して,そこから消費生活センターにつないでもらうということも可能です。地域包括支援センターへの相談も費用は無料です。 各地の弁護士会も消費者問題の相談を受けていますので,弁護士会に直接相談することも考えてみてください。費用については,一定の収入以下の人のために弁護士費用を立て替えてくれる法テラスの民事扶助制度というのがありますので,弁護士会での相談のときに合わせて相談してみてください。 消費者問題の場合,クーリング・オフという契約解除の手続をするには8日という短い期間内にしなければなりませんし,布団代が銀行引落になっている場合は,早期に引落手続を中止することも必要ですので,発見すれば直ちに相談をするのがいいと思います。

Q

「投資取引被害」

父は5年ほど前に定年退職しましたが,最近,自宅にいろいろな人から電話がかかってきているようです。どうやら未公開株やら社債やらのもうけ話の勧誘を受けているようです。私が尋ねてもはっきりしたことは言わないのですが,いくらかお金を振り込んでしまっているようです。どうすればいいでしょうか。

低金利の時代が続くと,年金だけで生活している高齢の人にとっては,将来の生活への不安も生じてきます。悪質な業者は,このような心理につけこみ,「値上がり確実」,「絶対にもうかる」などともっともらしい話を並べて勧誘してきます。 特に,最近は,劇場型といって,何人かで役割を分担した電話をして,あたかもその商品を買わないと目の前の利益をみすみす逃がしてしまうと信じ込ませて交わせるような手口が増えています。中には過去にインチキな投資話で損をした人に対し,損を取り返してあげると言って,取り返すための手数料を巻き上げるといったような手口もあります。人の不安心理につけ込んだ悪質な商法です。 「値上がり確実」,「必ずもうかる」などという「うまい話」は「絶対に」ありません。そんな話の勧誘は絶対断るべきです。断る理由なんかいりません。「いらんもんはいらん」。これだけでいいのです。断る理由を言えば,相手はセールストークというこちらが断りにくくする言い方のマニュアルに従って攻めてきますので,相手のペースに巻き込まれて断れなくなってしまいます。下手に理由など言わずに,いらないとはっきり断ってしまうことです。相手の気持ちに気を遣う必要はありませんし,そもそもそういった電話には出ないようにするのが賢明です。 もっとも,高齢者本人が騙されていることに気付かない場合,あるいは騙されていることを認めたがらない場合も多く見られます。まずは,本人に,詐欺に遭ったのだということを説明し,二度と関わらないよう説得することが大切です。 また,おかしいと思ったら,すぐに消費生活センターや地域包括支援センターに相談しましょう。振り込んで支払ってしまった場合には,振り込め詐欺救済法(「犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律」)という法律に則って,速やかに振込先の預金口座を凍結するなどして,被害救済を図れるケースもあります。相談は早ければ早いほど被害を小さく出来る可能性があるのです。

Q

「高齢者虐待」

高齢者虐待を発見した場合にはどうしたらよいですか。また,虐待に対しどのような対応がされますか。

高齢者に対する虐待が深刻な状況にある中で,平成18年4月1日から高齢者虐待防止法が施行されています。この法律は高齢者の権利を擁護するため,高齢者の虐待を早期に発見し,またその虐待を予防するために作られたものです(虐待している家族等を罰するための法律ではありません)。具体的には,一般市民に対し,虐待を発見した場合に行政(市区町村)に通報する義務を課し,また,通報を受けた行政に対しては,虐待の事実関係を確認し,虐待に対し適切な対応する義務等を課しています。行政の適切な対応としては,関係機関や専門職等と適切に連携を取ること,緊急等の場合には一時的に養護者から分離して高齢者を病院に入院させたり,施設で保護したりすること,判断能力の十分でない高齢者に対して成年後見人の選任申立をすること,虐待に及んでしまった家族等の養護者を支援して虐待のない環境づくりをすること等が挙げられます。したがって,高齢者に対する虐待を発見した場合には,速やかに地域包括支援センター等市町村の高齢者虐待対応窓口に通報,相談するようにして下さい。


年金・介護・福祉・生活保護

Q

「年金の種類」

高齢者・障がい者の年金にはどのようなものがあるのでしょうか。

高齢者の年金は,老齢基礎年金,老齢厚生年金及び老齢共済年金があります。障がい者の年金は,障害基礎年金,障害厚生年金及び障害共済年金があります。基礎年金はすべての国民に共通するものですが,民間企業および団体で勤務していた方に対する厚生年金,ならびに官公庁および私立学校で勤務していた方に対する共済年金は,基礎年金に上乗せする形で年金が支給されることになっており,二階建ての年金給付のしくみをとっています。なお,老齢福祉年金というものもあります。生年月日が大正5年4月1日以前の方に支給されている年金は,これにあたる場合があります。詳細は,お近くの年金事務所にお問い合せ下さい。

Q

「介護保険」

介護保険とはどのような制度なのでしょうか。

介護保険は,原則として満65歳以上の方について,加齢により介護が必要(軽い順に「要介護1」~「要介護5」までの5段階。ただし,要介護状態になる可能性が極めて高い状態として「要支援」という段階があります。)であると市町村から認定を受けた方は,策定されたケアプランに基づいた介護サービスを受けることになり,介護サービス事業者と介護サービス契約を締結し,利用料の1割を負担して介護サービスを受けることができます。

Q

「福祉サービス利用契約」

福祉サービスを利用する契約を締結する場合,どのようなことに注意すればよいでしょうか。

福祉サービス契約で決めるべき最低限の事項は,サービスの内容と利用料ですが,その他にサービスの提供にあたって発生が予想される事項について定めるとトラブル防止となります。例えば,契約の有効期間・利用料(自己負担部分)の支払方法,ケアプランの変更・キャンセル,ヘルパーの交代の取り扱い,解除権発生事由,病気・事故の場合の対応です。契約の内容を明確にするためにも書面にし,また契約内容について充分に説明を受け理解した上で契約するよう留意する必要があります。利用者の権利が制限される場合や利用者の義務について誤解のないよう説明を受け十分理解することが必要です。またよりよいサービスを受けるには,よい事業者を選択する必要もあります。事業者の実績や専門家がどれだけいるのかなどあらかじめ調べておくとよいでしょう。

Q

「生活保護」

生活保護申請が却下されてしまいました,どうすればよいでしょうか。

働く能力・収入・資産がなければ,生活保護の要件は満たされます。保護の要件が満たされるにも拘わらず申請が却下されたのであれば,再度申請を行うこともできます。再度申請するときには,弁護士に同行して交渉をしてもらうことも可能です。社会福祉事務所とのやりとりを録音することも有効な手段でしょう。また生活保護申請の却下が違法であれば都道府県に対し審査請求を行い,それでも認められなければ行政訴訟を提起することもできます。生活保護の要件が満たされないことの立証責任は行政の側にあります。いずれにしても,速やかに弁護士に相談してみてください。


精神障がい

Q

「障がいに対する対応」

私の身内の者が精神障害の認定を受けました。もう入院させるしかないのでしょうか。

確かに,精神障がいのある方の場合,病院を受診させ本人に適切な医療を受ける機会を与えることが重要ですし,場合により入院による治療を受けることが必要なこともあります。しかし,「すべての精神病者は,可能な限り,地域において生活し働く権利をもつ」のであり,特に必要性がない場合にまでも入院をする必要はありません。医療機関や,保健所等の相談窓口に相談のうえ,入院の必要性があるか否かを確認することが先決です。また,精神障がいのある方の生活を支援するうえでは,医療と福祉が両輪となってその生活を支え,環境を整備することが重要です。2005年にスタートした障害者自立支援制度上,精神障がいのある方についても相談支援事業所が各市町村に設置されるようになりましたので,福祉サービスの利用・環境調整についての相談をすることも有用であると思われます。

Q

「入院制度」

精神障がい者の入院制度について教えて下さい。

精神病院の入院形態は,患者の自発的な意思に基づく任意入院と,自発的な意思によらない強制入院に分かれます。さらに,強制入院には措置入院と医療保護入院があり,他に一時的なものとして緊急措置入院,応急入院があります。措置入院とは,精神障がいのために自傷他害のおそれがあり,医療及び保護のために入院の必要があると判断された場合,都道府県知事の命令により,精神病院に強制的に入院させることをいい(精神保健福祉法29条1項),2名以上の指定医が診察をして,いずれも措置入院が必要と判断することが要件となります(精神保健福祉法29条1項・2項)。医療保護入院とは,医療及び保護のために入院の必要性があるときに,本人の同意がなくても,保護者の同意により,精神病院の管理者がその者を強制的に入院させることをいいます。指定医1名の診断が必要となり(精神保健福祉法33条1項1号),任意入院の可能性がないことが前提となります。保護者には,①後見人又は保佐人,②配偶者,③親権を行う者,④その他の扶養義務者のうちから家庭裁判所が選任した者がなり,順位は番号をつけた順になります。


障がい者の刑事事件

Q

「逮捕されたら」

障がいのある身内の者が逮捕されてしまいました。何もわからず心配です。

逮捕には,現行犯逮捕,裁判所の令状に基づく通常逮捕,緊急を要する場合に一定の要件の下に認められる緊急逮捕の3種類があり,いずれの場合でも,逮捕されてから最大72時間(3日間)身柄が拘束されます。さらに,検察官が,前記の制限期間内(かつ,警察から検察官に送検された時点から24時間以内)に裁判所に身柄の勾留請求をし,これが裁判所に認められた場合には,引き続いて最大20日間身柄が拘束されてしまいます。被疑者には,逮捕された段階で,弁護人を選任することができる旨が告知されることになっていますが,この時点では国選弁護人は選任されませんし,検察官の前記勾留請求後には,一定の要件を満たす事件について,被疑者国選弁護人が選任されますが,全ての事件ではありません。被疑者一般にあてはまることですが,必ずしも被疑者イコール犯人ではありませんし,実際に被疑者が犯人であったとしても,いろいろな言い分がある場合もあります。捜査機関への対応について,弁護士からなるべく早くアドバイスを受ける必要があります。被疑者が障がいのある人である場合には,さらに,①捜査担当者に被疑者の障がいの特性を理解してもらう必要性(特に判断能力・コミュニケーション能力に障がいのある場合の取調べにおいては,誘導等のため虚偽の自白調書が作成されかねませんので,要注意です。),②被疑者の障がいに配慮し,身柄の早期釈放ないし勾留場所における処遇の配慮を求める必要性などから,いっそう弁護士のアドバイスが重要となります。日弁連では,被疑者本人あるいはその親族・知人からの要請により,被疑者の勾留先に弁護士を派遣する制度(当番弁護士)を行っております。初回接見の費用は,本人の資力等にかかわらず弁護士会が負担し,無料で行っております。詳しくは,各地の弁護士会にお問い合わせ下さい。日弁連ホームページの以下のURL(http://www.nichibenren.or.jp/activity/criminal/reforming/kokusen_touban.html)または各地の弁護士会のホームページでも当番弁護士制度を説明しております。

Q

「精神鑑定」

被疑者被告人の精神鑑定はどうして行うのでしょうか。

刑法39条は,刑事責任能力について定めた条文であり,精神の障がいなどにより物事の善し悪しを判別する能力又はその判別に従って行動する能力が欠けている状態(心神喪失)の者の行為について処罰せず,その能力が著しく減退している状態(心身耗弱)の者の行為について刑を減軽する旨定めています。このような能力を欠く状態にある者については,適法行為をとることを期待することが不可能ないし著しく困難であり,非難の前提を欠いているので,処罰すること自体の意義がありません。精神鑑定は,そのような状態にあるかどうかを調べるために行うものであり,精神鑑定を行うことは,責任逃れのための手段ではありません。なお,精神障がいがあるからといって,当然に心神喪失,心神耗弱に該当する関係にはないことに注意すべきです。むしろ,精神障がいのある人の多くは普通に日常生活を送ることができます。精神障がいのある人を犯罪の責任をとれない者と決めつけ,危険視するのは誤った偏見です。


相続・遺言

Q

「相続・遺言」

相続人の範囲について教えてください。

誰かが死亡して相続が開始すると,遺言が残されていない場合には,法律に従って次の方々が相続人となります。それぞれの場合で法定相続分が異なることに注意が必要です。
1 配偶者(常に相続人となります)
2 子(又はその代襲者) 配偶者と子が相続人の場合,法定相続分は配偶者1/2,子1/2
3(子がいない場合)父母など直系尊属 配偶者と直系尊属が相続人の場合,法定相続分は配偶者2/3,直系尊属1/3
4(子も直系尊属もいない場合)兄弟姉妹 配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合,法定相続分は配偶者3/4,兄弟姉妹1/4
 ところで,相続人となるべき者が亡くなっている場合にその者の子が代わって相続人になることを「代襲相続」いいます。2の「子」が相続人となる場合は,その子が代襲相続人になり,その子も亡くなっていれば,さらにその子(本人にとっては孫)が再代襲相続人となり,代襲は延々と続きます。但し,4の「兄弟姉妹」が相続人となる場合は,代襲は,相続人となる者の子までとされています。

Q

「相続財産の範囲」

相続財産の範囲について教えてください。

相続財産には,死亡された方が死亡時に有していた一切の権利義務が含まれます。 権利だけでなく義務も含まれますので,例えば借金・保証債務も負の相続財産となります。なお,死亡された方のみが行使することのできる権利(一身専属権といいます。たとえば,扶養請求権,婚姻費用分担請求権などがあります。)や,祭祀財産(系譜・祭具・墳墓など)は含まれません。また,死亡された方が契約していた生命保険契約の死亡保険金は,相続財産には含まれません(ただし,死亡保険金の受取人が「被相続人」と指定されている場合は,保険金は相続財産となります。受取人がどのように指定されているかは念のために確認しておくのがよいと思います)。

Q

「相続債務」

借金が多い場合の対応について教えてください。

借金も相続されますので,相続人が借金の負担を免れたい場合は,相続放棄(民法938条)又は限定承認(民法922条)をする必要があります。相続放棄とは,財産も負債も一切相続しないという制度であり,限定承認とは,被相続人の相続財産の限度で負債を清算する(残った負債は相続しない)制度です。いずれも自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に家庭裁判所に対して相続放棄又は限定承認の申述をする必要があります。また,限定承認をするには,相続人全員で行う必要があります。なお,相続開始後に相続財産を処分等すると単純承認と見なされ,相続放棄や限定承認ができなくなることがあるので注意が必要です。

Q

「寄与分」

亡くなった母親の介護を10年以上私だけがやっていました。遺産分割の際に,分割分を多く主張できないでしょうか。

「共同相続人中」に,被相続人の「財産の維持又は増加」に「特別に寄与」した人がいる場合,「寄与分」(民法904条の2)として,法定相続分より多い額の相続が認められる場合があります。寄与分が認められる行為に制限はありませんが,法定の義務を超えるような特別の便宜を与える行為であること,及びその行為が実際に財産の維持・増加につながったことが必要となります。相続人による母親の介護が,扶養義務の履行としてではなく行われ,母親の財産の維持・増加につながったと言える場合は,寄与分が認められると考えられます。具体的な寄与分の割合は協議で定めますが,協議が整わない場合は,寄与分を主張する者の請求により家庭裁判所が定めることになります。

Q

「遺言の種類」

遺言の種類について教えてください。

遺言には,普通の方式として,自筆証書遺言,公正証書遺言,秘密証書遺言の3種類があります。 ①自筆証書遺言は,遺言をする人が全文,日付及び氏名を自書し,押印して作成します。ただし,内容が不明確だとして効力が認められないケースもありますので注意が必要です。
②公正証書遺言は,公証人に公正証書で作成してもらう遺言です。公証人が間に入りますので,内容が不明確だとして無効になる可能性はほとんどありません。
③秘密証書遺言は,公証人や証人の前に封印した遺言書を提出して遺言の存在は明らかにしながら,内容を秘密にして遺言書を保管することができる方式の遺言です。

Q

「遺産分割協議」

遺産分割協議はどのような場合に,どのようにすればよいでしょうか。

被相続人が亡くなった場合,相続財産(遺産)は,相続人に移転します。相続人が1人であれば,遺産は相続人の単独所有になります。相続人が複数の場合は,遺産が共同所有(共同相続)となり,相続人の間で分ける手続が必要となります。この手続が遺産分割です。遺言があれば遺産は遺言に従って分割されます。遺言がなければ共同相続人の間で遺産分割協議をすることになります。遺産分割協議がまとまらないときは,家庭裁判所に調停を申し立てて協議をする方法があります。調停が成立しない場合は審判手続に移り,家庭裁判所の審判により遺産分割の判断がなされます。


その他

Q

「介護事故」

私の母は軽度の認知症があり,数年前から有料老人ホームに入所して生活しています。昨日,ホームから「転倒して大腿骨を骨折してしまい,病院に緊急入院することになった」という連絡を受けました。有料老人ホームの見守りが十分でなかったことが原因ではないかと思うのですが,ホームに治療費等を請求することは出来ますか。また,ホームに確認しておいた方がよいことがあれば教えて下さい。

有料老人ホームをはじめとする高齢者の施設は,介護サービス等を提供するにあたり,利用者の生命,身体,財産等の安全に配慮しなければならない義務・債務を負っています(一般的に「安全配慮義務」と呼ばれています)。そのため,施設は,利用者の心身状況に対するアセスメント(利用者の問題の分析,援助活動の決定を行うために行われる評価)を適切に行い,そのアセスメントを前提にした各種の対応をしなければならず,介護事故の発生原因が,アセスメントがきちんと行われていなかったり,利用者の課題の認識や,課題に対する対応が不十分であったりするような場合には,利用者に対し責任(債務不履行責任)を負わなければならない,ということになります。したがって,まずは,施設に対し事故の状況,原因,アセスメントの内容等について十分な説明を求めて下さい。施設は,介護事故が発生した場合,市町村に事故報告書を作成して提出しなければならないルールになっていますので,事故報告書の開示,交付を求めることも有効です。施設に対する責任追及としては,治療費,慰謝料等の金銭賠償と事故の再発防止の請求が考えられます。金銭賠償は,通常,施設が加入する施設賠償保険を利用して行いますが,提示された金額に疑問がある場合にはお近くの弁護士に相談してみてください。


出典:日本弁護士連合会HP 『高齢者・障がい者に関するQ&A集』(pdfファイル)

https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/contact/consultation/data/koreisha_qa_140509.pdf
お問い合せ
山口県弁護士会 083-922-0087