会長声明・意見

令和7年秋の臨時国会で議員立法による再審法改正の実現を求める 会長声明

2025/09/26
1 議員立法の状況と内容

 本年(2025年(令和7年))6月18日、衆議院に「刑事訴訟法の一部を改正する法律案」(以下「本法案」という。)が提出され、その後、衆議院法務委員会に付託されて、閉会中審査となっている。
 本法案は、昨年3月、国会内に超党派で設立された「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟」(以下「再審法改正議連」という。)が、議員立法として提出したものである。再審法改正議連は、設立以来、全国会議員の半数を超える議員の参加を得て、えん罪被害者、最高裁、法務省、日本弁護士連合会等からのヒアリングを実施し、それを踏まえて改正項目や条文案を検討するなど、精力的な活動を重ねてきたものであり、今般、それが本法案として結実したものである。
 本法案は、「再審制度によって冤(えん)罪の被害者を適正かつ迅速に救済し、その基本的人権の保障を全うする」という観点から、①再審請求審における検察官保管証拠等の開示命令(以下「証拠開示制度」という。)、②再審開始決定に対する検察官の不服申立ての禁止、③再審請求審等における裁判官の除斥及び忌避、④再審請求審における手続規定、という4項目を喫緊に改正すべき内容として定めている。これは、日本弁護士連合会をはじめ弁護士会がこれまで求めてきた再審法改正の内容と軌を一にするものであって、再審法改正議連をはじめとする関係各位のこの間の尽力に深い敬意を表する。


2 法制審議会での審議への懸念

 一方で、再審法改正に関しては、本年4月21日以降、法制審議会刑事法(再審関係)部会(以下「法制審議会部会」という。)においても審議が行われ、本法案の定める上記4項目も審議対象となっており、これらを含む全14項目に及ぶ論点が提示されている。
 しかし、検察官と密接な関係を有する法務省が事務局を務める法制審議会が主導的な役割を担うことについて、まず、強い懸念を表明せざるを得ない。
 再審無罪となった、いわゆる「袴田事件」では、昨年9月26日に出された判決で捜査機関による証拠ねつ造が認定されている。また、いわゆる「福井女子中学生殺人事件」でも、本年7月18日に出された再審無罪判決において、有罪認定の有力な証拠が捜査機関による不正な捜査の影響を受けたものであったこと、検察官は、そのことに関する証拠を保管していたにもかかわらず、長きにわたりその証拠を開示しなかったことが認定されている。
 そして、両事件とも、検察官が、当初の再審開始決定に対して不服申立てを行い、その結果、再審開始決定が取り消され、再審無罪判決に至るまでの審理が長期化してしまっている。このうち、「福井女子中学生殺人事件」では、第1次再審請求で2011年(平成23年)11月に再審開始決定が出されたものの、検察官が不服申立てを行い、2013年(平成25年)3月に開始決定が取り消された。その結果、当初の再審開始決定から、第2次再審請求に対する再審開始決定が2024年(令和6年)10月に確定するまでの約13年もの間、本来不要であった審理が継続し、えん罪被害者を不安定な状況に陥らせたのである。現在、再審を求めている他の事件でも、同様の事態が存在する可能性があることを考えると、かかる不正義は早急に正されなければならない。
 再審制度の在り方に関していわば「当事者」でもある法務省が主導する法制審議会において、抜本的な改正が速やかになされるとは考え難い。
 現に、法制審議会部会では、検察官や学識経験者である委員らから、再審手続における証拠開示制度の範囲を新証拠及びそれに基づく主張に関連する限度にとどめようとする意見や、再審開始決定に対する検察官の不服申立てを禁止することに消極的な意見も多く見受けられ、最小限の改正に止めようという方向性が見られる。えん罪被害者からのヒアリングもわずか2事件のみで、これまでのえん罪事件について原因の検証を行うこともされていない。
 そして、法制審議会での早期の取りまとめを目指すとしても、全14項目に及ぶ論点が提示されていることからは、その法案化までには相当な期間を要することは明らかである。


3 早急な法改正の必要性とその理由

 再審法改正は、何よりもえん罪被害者の速やかな救済に資するものでなければならない。そして、上記4項目は、数多くある論点の中でも、えん罪被害者の速やかな救済を実現する上で根幹をなすものであるから、これらの点については、早急に法改正がなされるべきである。とりわけ「速やかな救済」という点では、①再審請求審における検察官保管証拠等の開示命令(証拠開示制度)及び②再審開始決定に対する検察官の不服申立ての禁止(以下「不服申立て禁止」という。)は特に必要であるため、以下、改めて述べる。

(1)証拠開示制度の必要性
 再審請求事件においては、検察官が保管していたものの確定審で提出しなかった証拠が、担当裁判官の裁量権に基づき証拠開示を行うよう示唆がなされたなどにより開示されたことが奏功して、再審が開始し、再審公判において無罪判決が言い渡された事件も少なくなく、先に述べた福井女子中学生事件もそのような事件の一つである。
 このように、証拠開示制度は、再審制度の下で、確定審での事実認定の検証を適正ならしめるために必要不可欠なものであり、裁判官の裁量に委ねるのではなく、早急に制度化されなければならない。

(2)不服申立て禁止の必要性
 無実の方の処罰は、真犯人の不処罰を上回る不正義である。そのような不正義の存在可能性が再審開始決定という形で一たび指摘された以上、速やかに再審開始決定を確定させて本格的な審理(再審公判)を開始することが「疑わしきは被告人の利益に」という原則に忠実な態度であって、再審開始決定に対する検察官の不服申立ては禁止されるべきである。
 なお、再審開始決定に対する検察官の不服申立てを禁止しても、検察官は再審公判において、再審請求審で提出される新証拠及びこれと関連する旧証拠の証明力を争う機会が保障されており、何ら不都合はない。


4 改正の方向性
 まずは「国の唯一の立法機関」(憲法41条)である国会において、上記4項目についての本法案による法改正を速やかに先行させ、あるべき再審法改正の方向性を示すことが重要である。そして、法制審議会では、その方向性に沿って、残された論点も含めて審議を尽くす役割を担うべきである。
 よって、当会は、国会に対し、速やかに本法案の審議を進め、今秋に予定されている臨時国会において、議員立法による本法案を可決・成立させることを求める。


2025年(令和7年)9月26日

                      山 口 県 弁 護 士 会
                       会 長 浜崎 大輔