会長声明・意見

佐賀県警察科学捜査研究所の技術職員によるDNA型鑑定の不正行為に関する会長声明

2025年(令和7年)11月17日
山 口 県 弁 護 士 会
会 長  浜 崎 大 輔
 2025年(令和7年)9月8日、佐賀県警察(以下「佐賀県警」という。)は、科学捜査研究所に所属する技術職員が7年余りにわたり、実際には実施していないDNA型鑑定を実施したかのように装うなどの不正行為(以下「本件不正行為」という。)を行っていたことを公表した。佐賀県警によると、同職員が鑑定を担当した632件の鑑定のうち130件で本件不正行為が確認され、16件の鑑定結果は、証拠として佐賀地方検察庁に送られていたとこのことである。また、鑑定資料が残っていた124件について再鑑定を行った結果、8件で当初の鑑定とは異なる結果が出たとのことである。
 DNA型鑑定は個人識別の科学的手法であり、捜査及び公判において被疑者・被告人と犯人の同一性を立証するために用いられる重要な証拠となり得るものである。そのため、技術職員がDNA型鑑定を適正に実施しなければ実体的真実の発見に支障を来し、真犯人を発見して適正な処罰を実現することができなくなるばかりか、冤罪を生み出す危険性がある。本件不正行為は、捜査機関が実施するDNA型鑑定を含む科学鑑定に対する信頼を根幹から揺るがすものであり、断じて容認できない。
 しかし、報道によると、佐賀県警は、本件不正行為について検察庁に確認し、裁判所の協力を得て精査し、公判には影響ないと判断している旨の説明をしており、本件不正行為の重大性を何ら認識していない。本年10月2日、佐賀県議会において、独立性、透明性、専門性などを備えた第三者による調査を行うことを含む内容の決議が全会一致で可決された。それでもなお、佐賀県警は、公安委員会が第三者的な立場から監督をしており、新たな調査機関の設置は必要ないとの認識を示した。佐賀県警に対しては、10月8日から警察庁による特別監察が行われているが、佐賀県警は、10月24日、改めて新たな調査機関の設置は必要ないとの認識を示している。
 同じ警察組織による内部的な調査では、公正中立で透明性の確保の担保はされず、本件不正行為が発生した背景・原因を明らかにすることは期待できない。本件不正行為が発生した背景・原因を徹底的に究明し、再発防止を図るため、当会は、佐賀県警に対し、当該技術職員が関与した本件不正行為を含むDNA型鑑定すべてについて、再鑑定を行ったうえで調査結果をすべて公表し、独立性、透明性、専門性などを備えた第三者機関による調査を行うことを強く求める。また、今後の対策として、再鑑定を可能とするために鑑定資料の保存を義務付けることを求める。
 本件不正行為が7年余りという長期にわたり明らかにならなかったことは、当該技術職員個人の問題にとどまらず、警察組織全体の問題である。よって、当会は、全国の都道府県警察に対しても、本件と同様の不正行為がないか調査・確認を行うことを求める。

以上