会長声明・意見

「オンライン接見」の早期実現を求める会長声明

2022/04/27

 法務省に設置された「刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会」(以下「検討会」という。)が、令和4年3月15日付で「取りまとめ報告書」を発表した。
 「取りまとめ報告書」では、「刑事手続における情報通信技術の活用は、刑事手続に携わる者の負担を軽減し、その合理化に資するものであるが、それのみを目的とすべきではなく、(中略)被疑者・被告人、(中略)について、捜査・公判に関与する負担を軽減し、それらの者の権利利益(憲法上保障されたものを含む。)の保護・実現に資するために活用されるべきである。」との共通認識に立ち、被疑者・被告人との接見交通について、「身体の拘束を受けている被疑者・被告人にとって、刑事施設・留置施設が弁護人等の法律事務所から遠く離れている場合等を含め、弁護人等の援助を受けることは重要な権利である。被疑者・被告人との接見交通について、非対面・遠隔でも行うことができるようにするため、情報通信技術を活用することが考えられる。」との認識が示されている。


 被疑者・被告人と弁護人ないし弁護人となろうとする者(以下「弁護人等」という。)との接見交通に情報通信技術を活用し、刑事施設・留置施設に収容中の被疑者・被告人と弁護人等とをビデオリンク方式で接続して「接見」を行うこと(以下「オンライン接見」という。)は、被疑者・被告人が、身体拘束の早期の段階で弁護人等の援助を受けることを可能にする点で、弁護人からの援助を受ける権利の実質的な保障に資する。
 これは、日本弁護士連合会がめざす逮捕段階の公的弁護制度を実効性のあるものにするためにも重要性が高い。とりわけ、山口県においては、逮捕中にのみ使用される留置施設(以下「48時間留置施設」という。)と勾留後に使用される留置施設とが異なり、かつ両施設の距離が離れている場合が数多く存する。そして「48時間留置施設」に留置されている被疑者が当番弁護士の派遣要請を行っても、当番弁護士が「48時間留置施設」に赴くための移動時間や、被疑者の移送に要する時間との関係で、当番弁護士が、検察官による弁解録取手続や勾留手続までに被疑者と接見できない事態も生じている。「オンライン接見」が実現された場合にはこのような状況は解消されることが期待できる。


 検討会の議論においては、「オンライン接見」の導入に対して、「なりすまし」や弁護人等以外の第三者の同席等の危険性や、弊害防止可能な物的・人的体制を確保することの困難性が指摘された。そのため、検討会は、「オンライン接見」を刑事訴訟法39条1項の接見交通としての権利性があるものとして法改正により実現させるという結論に至らず、「アクセスポイント」方式による外部交通として今後関係機関においてさらなる協議を進めるということとなった。
 しかし、指摘される「弊害」は、情報通信技術上の工夫や弁護士倫理の徹底により克服可能なものであり、まして、物的設備等を整えることに伴う財政負担を理由に憲法上の権利の保障に消極的になることは許されない。


 当面、検討会の「取りまとめ報告書」が求める関係機関による協議がすみやかに開始されることが必要である。そして、その協議を通じて、本来の権利性のある「オンライン接見」の実現を展望しつつ、十分な数の「アクセスポイント」の確保などにより実質的な「接見」に近づける運用がすみやかに実現されるべきである。

2022年(令和4年)4月26日
山口県弁護士会
会長 田 中 礼 司