会長声明・意見

民事法律扶助申込時の口座情報確認資料等の提出に関する会長声明

2022年(令和4年)5月31日
                            山口県弁護士会
会長 田 中 礼 司
第1 意見の趣旨
 1
 日本司法支援センター(以下「法テラス」という。)は,民事法律扶助業務運営細則第20条第1項第4号を直ちに廃止し,代理援助又は書類作成援助の審査の際に自動振込利用申込書兼預金口座振替依頼書及び口座情報確認資料の提出を求める扱いを廃止せよ。
 2
 法テラスは,申込者から自動振込利用申込書兼預金口座振替依頼書及び口座情報確認資料を得た後,援助不開始決定をした場合,直ちに各書面を返還又は廃棄せよ。
 3
 法テラスは,民事法律扶助業務運営細則第20条第1項第4号の廃止が実現するまでの間,生活保護受給者及び準生活保護受給者については,定型的に同号但書の「これを提出することが困難な特別の事情がある」ものとして,自動振込利用申込書兼預金口座振替依頼書及び口座情報確認資料の提出を求めない運用をせよ。

第2 意見の理由
 1 改正の概要
 業務方法書第37条第2項は,被援助者は,援助開始決定又はその後の決定で立替金の割賦償還について定められたときは,その決定後1か月以内に,自動払込手続その他理事長が別に定める手続を行わなければならないと定めている。そのため,従前の扱いでは,被援助者は,割賦償還が定められた後,自動振込利用申込書兼預金口座振替依頼書を提出すればよく,通帳の写しなど口座情報を確認できる資料を提出する必要もなかった。
 しかるに,法テラスは,口座情報等の不備等により,初回の自動引落ができないケースが一定数発生していたとして,民事法律扶助業務運営細則第20条第1項第4号を新設し,令和3年11月1日以降,代理援助又は書類作成援助を申し込む際,生活保護受給者を含む申込者全員に対し,自動振込利用申込書兼預金口座振替依頼書及び口座情報を確認できる資料(以下「口座情報確認資料等」と総称する。)を提出させる扱いに変更した。
 しかも,法テラスは,援助不開始決定となった場合でも,口座情報確認資料等を返還又は廃棄せず,地方事務所で所持し続ける扱いをしている。

 2 民事法律扶助業務運営細則第20条第1項第4号を直ちに廃止すべきこと
 口座情報は極めてセンシティブな個人情報であるから,特に慎重な取り扱いが求められる。法テラスが必要以上に申込者の口座情報を収集することは許されない。したがって,口座情報確認資料等は,割賦償還が決定した後に提出させればよく,割賦償還が決定される前に提出させる必要はない。
 また,業務方法書第37条第2項は,立替金の割賦償還が決定された後1か月以内に自動払込手続を行わなければならないと定め,その具体的な細則の定立を理事長に委任しているに過ぎないから,法テラスにおいて,割賦償還が決定される前に口座情報確認資料等を提出させる細則を定立することは,業務方法書第37条第2項の委任の範囲を逸脱する。
 さらに,民事法律扶助の援助要件は,特定援助対象者を除き,①収入と資産が資力基準以下であること,②勝訴の見込みがないとはいえないこと,③民事法律扶助の趣旨に適することとされ(業務方法書第9条),各要件を充足すれば援助決定が得られるはずであるから,援助決定前に口座情報確認資料等の提出を要求することは,業務方法書第9条に定めのない要件を細則で加重するものといえる。
 そもそも,民事法律扶助は裁判を受ける権利(憲法第32条)を実質的に保障する制度と位置づけられ,法テラスの使命は「すべての人と司法を結ぶ架け橋として,誰もが,いつでも,どこでも,法による紛争の解決に必要な情報やサービスの提供が受けられる社会の実現」を目指すことにある(ホームページ)。しかるに,まだ割賦償還が定められていない段階で口座情報確認資料等の提出を求めれば,個人情報の漏洩又は悪用を危惧する者が申込みを逡巡する効果をもたらし,迅速なサービスの提供を阻害する結果を招きかねないから,民事法律扶助の趣旨及び法テラスの使命を没却する。
 以上の事情を考慮すれば,民事法律扶助業務運営細則第20条1項第4号は,業務方法書第37条第2項及び第9条に違反し,ひいては民事法律扶助及び法テラスの使命を没却するから,直ちに廃止すべきである。

 3 援助不開始決定後は直ちに口座情報確認資料等を返還又は破棄すべきこと
 前述のとおり,口座情報は極めてセンシティブな個人情報であるから,たとえ法テラスが適法に口座情報を収集した場合でも,当該情報を利用目的の範囲を超えて利用・所持することは許されない。
 この点,法テラスが口座情報確認資料等の提出を求める趣旨は,割賦償還の円滑な実施にあるから,法テラスが援助不開始決定をした場合,もはや口座情報確認資料等を所持し続ける理由はない。それどころか,無用となった口座情報確認資料等を所持し続ければ,個人情報の漏洩や目的外利用を誘発させるおそれがある。
 したがって,法テラスは,援助不開始決定をした場合,個人情報の漏洩や目的外利用を防止するため,直ちに口座情報確認資料等を返還又は廃棄すべきである。

 4 生活保護受給者及び準生活保護受給者の運用について
 生活保護受給者及び準生活保護受給者(生活保護受給者に準ずる程度に生計が困難であり,かつ,将来にわたってその資力を回復する見込みに乏しいと認められる者)は,立替金の全部又は一部の償還免除が得られる見込みが高い(業務方法書第59条の3第1項)のであるから,償還免除が得られなかった場合に限り,口座情報確認資料等の提出を要求すれば足りる。
 また,法テラスは,生活保護受給者及び準生活保護受給者であっても,直ちに償還免除を決定せず,まず償還猶予をして資力回復困難要件が充足されるかを見極める扱いをしている(業務方法書31条1項,59条の2)。そのため,仮に償還を開始することになっても,援助開始決定から償還開始までの間に口座が変更されれば,改めて口座情報確認資料等の提出を求めることになるから,申込時に口座情報確認資料等を提出させる必要はなく,償還開始の直前に口座情報確認資料等を提出させれば足りる。
 さらに,生活保護受給者及び準生活保護受給者は,特に民事法律扶助のニーズが高いところ,口座情報確認資料の提出といった無用な援助要件を課せば,援助開始決定が遅れるだけでなく,申込者にとって過大な精神的・物理的負担となるから,申込を萎縮させる効果を招く。
 法テラス職員にとっても,無用な事務手続が増えれば,業務の負担が大きくなり,審査事務の滞留を招くから,迅速な援助開始が阻害される。もちろん,民事法律扶助契約弁護士・司法書士等にとっても,報酬が安く定められているうえ,さらに事務負担が増えれば,ますます民事法律扶助を利用する意欲を失い,民事法律扶助制度を忌避する傾向を生む。これでは,民事法律扶助が機能不全に陥り,結果として利用数の減少を招き,本末転倒となる。
 以上の事情を考慮すれば,民事法律扶助業務運営細則第20条1項第4号が廃止されるまでの暫定的措置として,生活保護受給者及び準生活保護受給者については,定型的に同号但書の「これを提出することが困難な特別の事情がある」ものとして,口座情報確認資料等の提出を求めない運用をするのが相当である。
以上