会長声明・意見
最低賃金額の大幅な引上げ、中小企業の支援策等の実行及び山口地方最低賃金審議会山口県特定最低賃金専門部会の審議の公開と議事録の公表を求める会長声明
2025/05/01
1 山口県の地域別最低賃金額は、令和5年度が時給928円、令和6年度が時給979円であった(引上額は51円)。しかし、時給979円では、月173時間働いても、月収16万9367円、年収203万2404円にしかならない。
近年の食料品やガソリンの高騰を考慮すれば、時給979円では山口県内の労働者が安定した生活を送れるとは言い難い。労働者の安定した生活を確保するためには、最低賃金の大幅な引上げが必要である。
2 最低賃金額の地域間格差も是正されていない。例えば東京都の地域別最低賃金額は、令和5年度が時給1113円(山口県との差額は185円)、令和6年度が時給1163円(山口県との差額は184円)であった。
3 しかも、都市部は人口が増加傾向にあるが、地方は人口が減少傾向にある。例えば総務省統計局が令和7年1月に作成した「住民基本台帳人口移動報告 2024年結果」によれば、東京都の転入超過数は、令和5年度が6万8285人、令和6年度が7万9285人であったが、山口県は、令和5年度が-3718人、令和6年度が-4357人であった。
仮に地域間格差が放置されれば、最低賃金の低い地域から高い地域へ労働力が移動し、地方の経済が停滞するおそれがある。地方の労働力を確保し、地方経済を活性化するためにも、最低賃金の大幅な引上げが必要である。
第2 中小企業の支援策等
1 最低賃金の引上げには中小企業の支援が必要である。
2 中小企業家同友会全国協議会が2024年10月から12月に実施した経営実態アンケートによれば、賃上げに必要な国の支援策として、1番目に「社会保険料事業主負担の軽減」(72.2%)、2番目に「法人税の減税」(48.9%)、3番目に「雇用維持にかかる補助金・助成金の拡充」(40.7%)が挙げられた。
日本商工会議所と東京商工会議所が作成した2023年3月28日付け「最低賃金および中小企業の賃金・雇用に関する調査」でも、中小企業が自発的・持続的に賃上げできる環境整備のための支援策として、2番目に「取引価格の適正化・円滑な価格転嫁」(41.1%)、3番目に「税・社会保障負担等の軽減」(39.1%)が挙げられた。
3 取引価格の適正化・円滑な価格転嫁については、内閣官房と公正取引員会が作成した令和5年11月29日付け「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」に基づき、労務費の適切な転嫁を妨害して公正な競争を阻害するおそれがある発注者に対し、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律や下請代金支払遅延等防止法(現在、発注者・受注者間の「構造的な価格転嫁」の実現等のために国会で法改正が審議されており、「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」に改称される可能性がある。)に基づく厳正な対処が必要である。
第3 特定専門部会の審議の公開と議事録の公表
1 現在、山口地方最低賃金審議会では、本会議と専門部会(都道府県の地域別最低賃金について調査審議するために最低賃金審議会に置かれる機関)は審議を公開し、山口労働局のウェブサイトで議事録を公開しているが、特定専門部会(鉄鋼業等産業別の特定最低賃金について調査審議するために最低賃金審議会に置かれる機関)は第1回も含めて審議を全面非公開とし、山口労働局のウェブサイトでも議事録を公表していない(資料と議事要旨のみ公表している)。
しかし、中国地方では、特定専門部会の審議は鳥取県と島根県が第1回から公開し、広島県と岡山県は第1回のみ公開している(第2回からは非公開)。第1回も含めて全面非公開としているのは、山口県のみである。
2 山口地方最低賃金審議会専門部会運営規程第4条の2第1項は、「会議は、原則として公開とする。ただし、公開することにより、個人情報の保護に支障を及ぼすおそれのある場合、個人若しくは団体の権利利益が不当に侵害されるおそれがある場合又は率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれる場合には、部会長は、会議を非公開とすることができる。」と定めている。同規程第6条は、議事録について類似の内容を定めている。
しかし、同特定専門部会の議事要旨には、会議を非公開にした理由が記載されていない。そのため、何を理由に非公開としたのか不明である。広島県と岡山県では、第1回の議事録において第2回からの審議を非公開とする理由が記載されているが、非公開の理由が全く不明であるのは、中国地方では山口県のみである。
3 たしかに、発言者と発言内容が特定されれば、後日それを不満に思う者から非難されるおそれがあるが、労使がどのような主張を行い、それがどう最低賃金に反映されたか検証できなければ、原則公開の趣旨が没却される。少なくとも、第1回も含めて全面非公開とする運営は、原則と例外が逆転しており明らかに過剰といえる。鳥取県と島根県のように、山口県でも特定専門部会の審議を第1回から公開し、議事録を公表すべきである。また、安易に非公開とすることのないよう、非公開とする場合はその具体的な理由を議事に記載するとともに、やむを得ず非公開とする場合でも、非公開の範囲を可能な限り限定すべきである。
第4 まとめ
よって、当会は、
1 厚生労働大臣及び山口労働局長は、労働者が安定した生活を確保できるよう、最低賃金の大幅な引上げを行うこと。
2 国は、社会保険料の事業主負担部分の軽減、減税及び補助金の拡充等の中小企業支援策を実行すること。また、労務費の適切な転嫁を妨害して公正な競争を阻害するおそれがある発注者に対し、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律や下請代金支払遅延等防止法に基づき厳正に対処すること。
3 山口県は、減税及び補助金の拡充等の中小企業支援策を実行すること。
4 山口地方最低賃金審議会山口県特定最低賃金専門部会は、審議を第1回から公開し、議事録を公表すること。やむを得ず非公開とする場合は、その具体的な理由を議事に記載し、非公開の範囲を可能な限り限定すること。
をそれぞれ求める。
2025年(令和7年)5月1日
山口県弁護士会
会長 浜崎大輔
山口県弁護士会
会長 浜崎大輔