会長声明・意見

民法・戸籍法等の婚姻等に関する諸規定の速やかな改正を求めるとともに地方自治体における同性パートナーシップ制度の制定を推進する会長声明

2021年(令和3年)5月31日
山口県弁護士会 会長 末永 久大

 令和3年3月17日、札幌地方裁判所は、同性間の婚姻を認める規定を設けていない民法及び戸籍法の婚姻に関する諸規定について、「異性愛者に対しては婚姻という制度を利用する機会を提供しているにもかかわらず、同性愛者に対しては、婚姻によって生じる法的効果の一部ですらもこれを享受する法的手段を提供しないとしていること」は、立法府の裁量権の範囲を超えたものであって、その限度で憲法14条1項に違反するとの判決を言い渡した。
 本判決では、「異性愛者と同性愛者との違いは、人の意思によって選択・変更しえない性的指向の差異でしかなく、いかなる性的指向を有する者であっても、享有し得る法的利益に差異はないといわなければならない。」との判断が示されるとともに、判断理由として、明治時代から近時まで同性愛を精神疾患とする誤った知見のもとで同性愛に対する否定的な意見や価値観が形成されてきたものの平成4年頃までには外国及び我が国において、同性愛は精神疾患ではないとする知見が確立したこと、憲法24条の趣旨に照らせば、同条や民法等の諸規定は同性愛者が営む共同生活に対する一切の法的保護を否定する理由となるものとはいえないこと、我が国においても登録パートナーシップ制度を導入する地方公共団体が増加していること、同性婚を法律によって認めるべきとの世論も平成27年の調査当時からおおむね半数に達し、比較的若い世代(60歳未満)においては性的指向による区別取扱いの解消を要請する国民意識が高まっていることを認定しているところである。


 本判決も指摘するとおり、公表されているだけでも既に全国で多数の地方自治体が登録パートナーシップ制度を採用しており、山口県内でも宇部市において登録パートナーシップ制度の導入に向けた取り組みが具体的に進められるなど、地方自治体においては,性的指向による区別取扱いの解消や法的配慮に向けた施策が整備・推進されてきた。
 当会としても,このような地方自治体の性的指向による区別取扱いの解消や法的配慮に向けた施策の整備・推進は、同性カップルの生活を保障し、性的マイノリティに対する差別や偏見のない地域社会を実現するためのものとして、積極的に支持するところである。
 しかしながら、性的指向による取扱いは、本来、住む場所によって相違が生じることが好ましい問題ではないし,また、地方自治体での登録パートナーシップ制度は,法律上の制度ではないことから、法的効果はない。


 本判決も指摘するように、同性婚については年齢層による意見の相違が明確であり、世代間の問題意識の衝突の場面でもある。
 近年,学校教育の場においては、性的マイノリティに対する配慮についての取組みが始まっており,性的マイノリティの問題は既に高等学校教育の教科書でも複数の科目において取り上げられるなどしている。このような変化を受け、若年層において婚姻や共同生活の形成に直面する時期を迎える中で、性的指向による区別取扱いの解消に向けた意識の醸成が今後さらに進むことが予想される。
 そうであれば、性的マイノリティについて誤解が十分に解消されていない年長世代の意見により法的整備が阻害され又は遅滞し、性的マイノリティ当事者やパートナーの婚姻や共同生活における不自由が継続することは、正に不合理なことといわざるを得ない。
 このような問題こそ、国及び地方自治体が先頭に立って立法措置等による制度変更を行って法的保障を認め、全世代の意識を変えていく姿勢が求められているといえる。


 日本弁護士連合会も、令和元年7月18日、同性間の婚姻を認めない現行法制は、同性愛者の婚姻の自由を侵害し、法の下の平等に違反するものであり、憲法13条、14条に照らし重大な人権侵害と言うべきである、とする「同性の当事者による婚姻に関する意見書」を公表している。
 本判決の趣旨は、上記意見書の理念に沿うものである。
 当会としても、性の多様性を尊重する社会を実現するべく、地方自治体における登録パートナーシップ制度の整備を積極的に支持するとともに、国に対しては、本判決の認定を真摯に受け止めて違憲と評価された現在の状態を速やかに解消するべく、民法・戸籍法等の婚姻等に関する諸規定の改正に速やかに着手することを強く求めるところである。