会長声明・意見

安全保障法制改定法案に反対する会長声明

平成27年6月10日
山口県弁護士会 会長 清水弘彦
政府は,2014年(平成26年)7月1日に集団的自衛権行使容認等を内容とする閣議決定を行い,さらに本年4月27日に,米国との間で「日米防衛協力のための指針」の見直しを先行して合意した上で,本年5月15日に安全保障法制を改定するために,自衛隊法,武力攻撃事態法,周辺事態法,国連平和維持活動協力法等を改定する平和安全法制整備法案及び新規立法である国際平和支援法案(以下併せて,「本法案」という。)を国会に提出した。
 本法案は,自衛隊が,平時から緊急事態に至るまで,地理的な限定なく世界のどこででも,自らの武力の行使や,戦争を遂行する他国の支援,停戦処理活動等を広汎に行うことを可能とするものである。
 本法案には様々な問題点が存在するが,次に指摘する点は特に日本国憲法に違反する点で重大である。
 まず,我が国が直接武力攻撃を受けていなくとも我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し,これにより我が国の存立が脅かされる等の要件を満たす事態を「存立危機事態」と称し,この場合に,世界のどこででも自衛隊が米国及び他国軍隊とともに武力を行使することを可能としている。しかし,これは,憲法第9条に違反して,国際法上の集団的自衛権の行使を容認するものである。
 次に,我が国の平和と安全に重要な影響を与える「重要影響事態」や,国際社会の平和と安全を脅かす「国際平和共同対処事態」において,現に戦闘行為が行われている現場でなければ,地理的な限定なくどこででも,自衛隊が戦争を行っている米国及び他国軍隊に,弾薬の提供等まで含む支援活動を行うことを可能としている。これでは,従前禁止されてきた他国との武力行使の一体化は避けられず,憲法第9条が禁止する海外での武力行使に道を開くものである。
 さらに,これまでの国連平和維持活動(PKO)のほかに,国連が統括しない有志連合等の「国際連携平和安全活動」にまで活動領域を拡大し,従来PKOにおいてその危険性故に禁止されてきた安全確保業務や「駆け付け警護」を行うこと,及びそれに伴う任務遂行のための武器使用を認めている。しかし,この武器使用は,自己保存のための限度を超えて,相手の妨害を排除するためのものであり,自衛隊員を殺傷の現場にさらし,さらには戦闘行為から武力の行使に発展する道を開くものである。その危険性は,新たに自衛隊の任務として認められた在外邦人救出等の活動についても同様である。これらも,憲法第9条が禁止する海外での武力行使に道を開くものである。
 以上のとおり,本法案は,平和主義を定めた憲法前文及び第9条に違反し,平和国家としての日本の国の在り方を根底から覆すものである。また,これらの憲法の条項を法律で改変するものとして立憲主義の基本理念に真っ向から反する。さらに,憲法改正手続を踏むことなく憲法の実質的改正をしようとするものとして国民主権の基本原理にも反する。
 よって,当会は,基本的人権の擁護を使命とする法律家の団体として,本法案の違憲性を強く訴え,本法案による安全保障法制の改定に強く反対するものである。

以上