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1 本年5月29日、日本弁護士連合会に脅迫文書と銃弾の模造品が送付された。脅迫の内容は、広島高等裁判所に現在係属中の殺人等被告事件(いわゆる「光市母子殺人事件」)に関し、被告人である元少年を死刑にできないならば、元少年を助けようとする弁護人らを処刑する等というものである。さらに、本年7月8日までに朝日新聞東京本社及び読売新聞東京本社にも同趣旨の脅迫文書等が届いていたことが判明している。
一審で無期懲役の判決がなされた後、一審で弁護人を担当した当会の会員に対しても、これまで、一審判決時に法廷でガッツポーズをした等という事実無根の誹謗中傷等を含め、匿名によるさまざまないやがらせがなされてきたが、当会は、このような事態をも考慮したうえで、この度の弁護人に対する脅迫行為に対し、厳重に抗議するとともに、弁護人の役割に対する理解を求めるため、本声明を発表するものである。
2 本事件は、母親と幼い子どもの命が失われた大変痛ましいものであって、ご遺族の心情には察して余りあるものがあり、亡くなられたお二人のご冥福を衷心よりお祈り申し上げるものである。 また、本事件は、社会的にも影響が大きく、多くの市民の関心を集めている事案でもある。 しかし、人類が、罪を犯した者に対し、被害者が私怨をはらすための報復を許さず、これを処罰するための民主的なルールとして、刑事裁判という制度を編み出したことの意義からすれば、遺族の心情や社会的関心がどのようなものであろうとも、被告人の弁護人依頼権は十分に保障される必要があり、その権利の実現のための弁護人の自由な活動も保障されなければならない。 これが十分に保障されることによって、はじめて裁判所による真実の発見(冤罪の防止)、罪刑均衡の実現、被告人の更生、社会安全の維持といった重要な社会的利益も確保されるのである。 そのため、憲法第34条は、「何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない」と規定し、憲法第37条第3項は「刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する」と規定しているのである。
3 しかしながら、ともすれば被告人のための弁護活動は、被害者や遺族の感情を害し、罪を憎む余りの素朴な世論から批判に晒されることも少なくないが、そのような状況にあるからこそ、弁護人は、被告人の援護者として敢然とその職務を全うしなければならないのである。 国連の「弁護士の役割に関する基本原則」は、第1条において「すべて人は、自己の権利を保護、確立し、刑事手続のあらゆる段階で自己を防御するために、自ら選任した弁護士の援助を受ける権利を有する」と規定し、第16条において「政府は、弁護士が脅迫、妨害、困惑あるいは不当な干渉を受けることなく、その専門的職務をすべて果たし得ること、自国内及び国外において、自由に移動し、依頼者と相談し得ること、確立された職務上の義務、基準、倫理に則った行為について、弁護士が、起訴、あるいは行政的、経済的その他の制裁を受けたり、そのような脅威にさらされないことを保障するものとする」と規定している。これは、民主主義社会における弁護人依頼権と自由な弁護活動の重要性が国際的にも承認されていることを端的に示すものである。
4 今回の一連の脅迫行為は、上記のような重要な役割を担う弁護人の弁護活動を、暴力によって威嚇し、その結果、被告人の弁護人依頼権と適正な裁判を受ける権利を踏みにじろうとする極めて卑劣なものであって、断じて許すことはできない。 刑事弁護人に対する脅迫が、民主主義社会に対する挑戦であるとの認識は、広く市民と共有することのできるものであると信じる。当会は、かかる共通の認識の下に、今回の脅迫行為に対して厳重に抗議する。そして、今後とも刑事弁護に携わるすべての弁護士は、いかなる卑劣な脅迫行為にも決して屈するものではないという決意をあらためて確認するとともに、その職責を全うできるよう、最大限支援していくことをここに表明する。
2007年(平成19年)7月24日
山口県弁護士会 会 長 松 崎 孝 一 |