弁護士会について/About Yamaguchi Bar Association

決議・会長声明

最低賃金額の引き上げなどを求める会長声明

2018年(平成30年)6月25日
山口県弁護士会 会長 白石資朗

第1 まず,最低賃金額を全国一律1000円以上に引き上げることを求める。

1 現行の最低賃金時間額が低いこと
   中央最低賃金審議会は,平成29年7月27日,地域別最低賃金額改定の目安を答申した。同答申で提示された公益委員見解の目安によれば,全国加重平均額は,時間額848円(引上げ額25円)であった。
   しかし,848円では,たとえフルタイムで(たとえば月173時間)働いても,月収14万6704円,年収176万0448円しかない。この収入だけでは,労働者の生活を維持することは極めて難しく,病気や怪我などに備えて貯蓄することもできない。しかも,平成29年の地域別最低賃金時間額のうち,848円より高かった都道府県は,東京都,神奈川県,大阪府など僅か7箇所しかなかった。
山口県の最低労働賃金額も,777円に止まった。
   働いているにもかかわらず貧困状態にある者の多数は,最低賃金近傍での労働を余儀なくされている。たとえば,厚生労働省作成の「最低賃金近傍の労働者の実態について(賃金構造基本統計調査に基づく分析)」によれば,平成26年当時,地域別最低賃金額で働く一般労働者の比率は,平均賃金に対して41.1%,中位賃金(低い方から数えて全体の2分の1番目に該当する者の賃金)に対して48.6%であるが,第1・十分位(低い方から数えて全体の10分の1番目)に対して80.1%であった。
   しかるに,日本の最低賃金は,先進諸外国の最低賃金と比較しても著しく低い。たとえば,各国の最低賃金額は,フランスが9.88ユーロ(約1256円),イギリスが7.83ポンド(25歳以上。約1132円),アメリカでも,ワシントン州で11.5ドル(約1251円。特別区は12.5ドル),アリゾナ州で10.5ドル(約1142円)であり,日本円に換算すると,いずれも1000円を超えている(2018年5月下旬の終値で換算。端数切り捨て)。
   平成27年の相対的貧困率は,15.6%(対24年△0.5%)と若干改善されたが,依然として約6人に1人が貧困ラインにある。最低賃金が低いことは,貧困状態からの脱出を阻む大きな要因となっている。貧困と格差を是正するためにも,最低賃金額を1000円以上に引き上げることが必要である。
2 地域間格差について
   また,現在の最低賃金額は,著しい地域間格差が生じている。たとえば,高知県,佐賀県,長崎県,熊本県,大分県,宮崎県,鹿児島県及び沖縄県の最低賃金時間額(737円)は,東京都の最低賃金時間額(958円)より221円も低く,公益委員見解で提示された全国加重平均額(848円)より111円も低い。
   地方最低賃金審議会は,公益委員が提示する最低賃金額改定の目安を参考にして引上げ額を答申し,各地方労働局長は,同答申に基づき最低賃金額の改定を決定するから,目安に差があることは,最低賃金額の地域間格差をもたらす原因となる。しかも,目安は,毎年提示されるので,地域間格差も,毎年広がる傾向にある。
   しかし,最低賃金額に地域間格差を設けることは,合理性がない。一般に都市では物価が高いと言われているが,たとえば,地方では交通機関が発達していないため自動車の保有が必要であるし,また,地方ではディスカウントショップが少なかったりするので,結局,最低生活費は,あまり変わらないと言われている。また,最低賃金額の地域間格差が広がれば,若者の都市部への流出を加速することになる。したがって,最低賃金額は,地域間格差を解消して,全国一律とすべきである。
3 中小・零細企業に対する金融的・財政的な支援
   なお,最低賃金額の大幅な引上げを実現するには,中小・零細企業に対し金融的・財政的な支援も必要である。中小・零細企業の経営基盤を強くし,地域でお金が循環するようになれば,地域経済も活性化し,それがまた地域の中小・零細企業の経営を安定させる結果となる。
4 まとめ
   よって,山口県弁護士会は,中小・零細企業に対する金融的・財政的な支援をしたうえで,最低賃金額を全国一律1000円以上に引き上げることを求める。


第2 次に,公正かつ透明性のある最低賃金額の決定手続を実現するよう求める。

1 鳥取方式の導入
   鳥取地方最低賃金審議会では,従前,議事録は公開されていたものの,専門部会の審議は非公開であり,専門部会の意見聴取及び答申内容に対する異議申立ては書面のみ許され,審議会の傍聴も人数が制限され,最低賃金額の決定過程も労使が水面下で交渉するため不透明であった。
   しかし,同審議会は,平成20年,藤田安一鳥取大学名誉教授が会長に就任して以降,いわゆる「鳥取方式」と呼ばれる運営方式の改革を実行した。同方式により,専門部会の審議は運営規程の原則に従い公開とされ(審議の公開),参考人は専門部会の意見聴取において15分から20分程度意見を述べられるようになり,答申内容に対する異議申立ても審議会の席で当事者が直接述べられるようになり(意見聴取の実質化),審議会の傍聴も,人数制限が撤廃され(傍聴の自由化),最低賃金額の決定過程も,水面下での交渉が禁止され,審議会での討論を通じて行われるようになり,透明化された(水面下での交渉の禁止)。
   山口県弁護士会は,平成30年3月31日,日本弁護士連合会貧困問題全国キャラバン「働き方を考える ~全ての人が人間らしく生活するために~」を開催し,藤田教授を招き,同審議会会長時代の講演をしていただいた。藤田教授は,同講演において,鳥取方式を採用しても特段の弊害や混乱はなく,むしろ意見がよく出て審議が活性化したと述べ,鳥取方式を全国に広げるよう勧めた。最低賃金は人間の尊厳にかかわる問題である。最低賃金と直接関係する国民や労働者から遠く離れたところで決定されてはならない。また,最低賃金決定の過程が,その適用を受ける労働者の知らないところで決定されてはならない。
   このように,鳥取方式の導入は,最低賃金額の決定手続を公正かつ透明ならしめるうえで必要不可欠といえる。
2 最低賃金審議会の委員の構成も再検討
   また,公正かつ透明性のある最低賃金額の決定手続を実現するには,最低賃金審議会の委員の構成も再検討すべきである。
   最低賃金審議会の委員は,労働者を代表する委員,使用者を代表する委員及び公益を代表する委員各同数をもって組織され(最低賃金法22条)。労働者を代表する委員は,関係労働組合からの推薦に基づいて任命される(最低賃金審議会令3条1項)。
   しかし,労働者を代表する委員の構成を見る限り,果たして非正規労働者の声が最低賃金審議会で適切に反映されているか疑問が残る。総務省統計局が作成する労働力調査(詳細集計・平成30年1~3月期平均・速報)によれば,非正規の職員・従業員(役員を除く雇用者)は2117万人(100万人の増加。23期連続の増加),役員を除く雇用者に占める非正規の職員・従業員の割合は38.2%(6期ぶりの上昇)とされているから,労働者一般の利益を代表する者だけでなく,非正規労働者の利益を代表する者も積極的に任命すべきである。
   また,公益を代表する委員についても,最低賃金法の平成19年改正において,生活保護に係る施策との整合性に配慮するものとされたことを考慮すれば,労働法を専門とする学者のみならず,生活困窮者の就労支援等を行っている団体の出身者や社会保障法を専門とする学者を任命すべきである。
   このように,多様な立場の人を審議会の委員とすることは,最低賃金額の決定手続を公正かつ透明あるものとするうえで必要不可欠といえる。
3 まとめ
   よって,山口県弁護士会は,公正かつ透明性のある最低賃金額の決定手続を実現するため,最低賃金審議会が鳥取方式を導入し,また,多様な立場の人を審議会の委員とすることを求める。
以上
 

 
このページの先頭へ