弁護士会について/About Yamaguchi Bar Association

決議・会長声明

法曹養成に関する会長声明

  (PDF版)
平成25年7月19日
山口県弁護士会 会長 大田明登

     山口県弁護士会は、先日、公表された政府の法曹養成制度検討会議の「最終取りまとめ」を受けて、以下のとおり、会長声明を発表する。



第1 声明の趣旨

1 司法試験合格者数を当面1000名程度に減少させ、その間に全国的な需要調査を実施すること。

2 司法試験の受験資格から「法科大学院課程修了」の要件を削除すること。

3 受験回数制限を完全に撤廃すること。

4 司法修習生に対する給与の支払いを復活させること。

5 司法試験の受験資格から「法科大学院課程修了」の要件を削除するまでの間、予備試験合格者と法科大学院修了者との間の司法試験合格率が同程度になるまで予備試験合格者を増加させて、司法試験受験の機会を与えること。

を国に対して要望する。




第2 声明の理由

平成25年6月26日、政府の法曹養成制度検討会議は、「最終取りまとめ」を発表した(以下「最終取りまとめ」という。)。

しかし、「最終取りまとめ」は、近年の司法制度改革を見直す方向性を打ち出したが、合格者数を含む司法試験制度、法科大学院制度及び司法修習に対する給費制の面で特に不十分である。


1 司法試験合格者数を当面1000名程度に減少させるべきこと

(1)年間合格者数3000人の数値目標に実証性がないこと

司法改革が当初目指した、司法試験の年間合格者数3000人の数値目標は、法曹有資格者の活動領域の拡大を前提としていた。しかし、その前提としていた活動領域の拡大は、需要調査も経ない何ら実証性のないものであった。

この3000人の数値目標に関し、中国地方弁護士会連合会は、早期から実証性がないことを問題視し、平成19年10月12日の第61回中国地方弁護士大会において、「司法試験の合格者数を適正水準まで削減するよう求める決議」を行い、国に対して、法曹に対する需要の予測と司法試験の合格水準の検証を求めた。それにもかかわらず、需要調査が行われないまま、司法試験合格者の増加は続いた。

この度の「最終とりまとめ」に至り、ようやく司法試験年間合格者数3000人の数値目標は「現実性を欠く」とされたが、反面で「法曹に対する需要は今後も増加していくことが予想され」、「全体として法曹人口を引き続き増加させる必要があることに変わりはない」との展望が述べられている。しかし、この展望も依然として具体的な需要調査を経ない何ら実証性のないものである。

(2)訴訟事件数に基づく適正な法曹人口の検証

司法試験合格者数の数値目標の設定については、具体的な需要を踏まえた検討をすべきである。そして、その検討方法の一つとして弁護士数の増減と訴訟事件数の増減を比較するという方法が考えられるが、その検討結果は以下のとおりであり、法曹人口をこれ以上増加させる必要性はないという結論を導くものとなっている。

 ア 弁護士数の増加と全国的な事件数の減少

日本全体の弁護士数(日本弁護士連合会会員数)は、平成12年4月1日時点では1万7126人であったが、平成24年4月1日には3万2088人にまで増加した。

他方、司法統計によると、全裁判所(最高裁判所、高等裁判所、地方裁判所及び簡易裁判所)に新たに係属した民事・行政事件の件数は、平成12年の305万1709件から、平成23年には198万5298件に減少している。また、全裁判所に新たに係属した刑事事件のうち略式事件を除く訴訟事件の被告人数は、平成12年の11万9105人から、平成23年には10万0846人に減少している。

このような全国的な訴訟事件数の減少傾向からすれば、法曹人口を増加させる必要性は乏しい。

 イ 山口県における弁護士数の増加と事件数の減少

当会においても、平成12年4月1日時点での会員数(弁護士数)は67人であったが、平成24年4月1日には133人、平成25年4月1日には146人にまで増加した。

しかし、訴訟事件の減少は、全国傾向と同様である。司法統計によれば、山口県内の地方裁判所及び簡易裁判所に新たに係属した民事・行政事件の事件数は、平成12年の4万4681件から、平成23年には1万7688件に減少している。また、山口県内の地方裁判所及び簡易裁判所に新たに係属した刑事事件のうち略式事件を除く訴訟事件の被告人数は、平成12年の1364人から、平成23年には820人に減少している。

以上のとおり、山口県内の状況としても、弁護士数の増加を必要とするだけの訴訟事件数の拡大はなく、むしろ減少している。また、弁護士の増加を必要とするだけの活動領域が、訴訟事件以外の分野で大きく拡大しているという事実もない。

 ウ 弁護士過疎地域の解消

司法制度改革は、国民の法的サービスに対する利便性の向上の観点、すなわち弁護士過疎の解消も目的とされていた。

この点、いわゆる「弁護士ゼロ地域」は既に解消されており、国民の法的サービスに対する利便性は向上している。

山口県内でも、平成25年4月1日現在、山口・防府圏域(人口31万3924人)で51人、萩・長門・阿武圏域(人口10万9799人)で4人、宇部・小野田・美祢圏域(人口26万7484人)で11人、下関圏域(人口29万3347人)で40人、岩国・玖珂圏域(人口16万1037人)で12人、柳井・熊毛郡・大島郡圏域(人口9万3770人)で3人、周南・下松・光圏域(人口26万6524人)で25人の弁護士がそれぞれ活動しており、山口県内のどの圏域でも弁護士への需要に対して十分に応えられる体制が整っている。

(3)法曹人口が供給過剰の状態となっていること

司法試験の合格者数の増加に伴って、司法修習を終了して法律事務所への就職を希望する者は、累積的に増加している。法務省の法曹養成制度検討会議によれば、平成24年12月に司法修習を修了した者(2080人)のうち、363人が、平成25年1月10日時点でも、裁判官や検察官に任命されず、かつ、弁護士登録もしていない。

弁護士登録をしない原因は、主として就職できる法律事務所がなかったところにあると考えられ、このことは、弁護士の供給過剰の状態を端的に物語っている。

(4)小括

以上から、司法改革による司法試験合格者数増加を一旦停止して、それ以前の合格者数である1000人程度に戻し、需要調査を実施したうえで、目標とする合格者数を検討するべきである。




2 司法試験の受験資格から「法科大学院修了」の要件を削除すべきこと

(1)「最終とりまとめ」における法科大学院の位置づけ

「最終取りまとめ」は、法科大学院を法曹養成制度の中核として位置づけ、司法試験受験資格を原則として法科大学院修了者に限定する制度の維持を前提とする。

しかし、法科大学院の存在意義については、さらなる見直しが必要である。

(2)法科大学院の存在意義が失われていること

法科大学院の存在意義について、「最終取りまとめ」の「第3」では、「現在の法曹養成制度は、司法試験という『点』のみによる選抜から、法曹養成に特化した教育を行うプロフェッショナル・スクールである法科大学院を設け、法学教育、司法試験、司法修習を有機的に連携させた『プロセス』としての法曹養成を目指して導入されたものである」とされている。

しかし、旧制度における「点」と評価されていたのは司法試験合格時点のみであって、司法試験合格後は2年間の司法研修によって「プロセス」としての法曹養成が実施されていた。法科大学院制度は、司法研修における「プロセス」の一部を肩代わりすることを目指して導入された。それ故、法科大学院の存在意義を検証するには、法科大学院が司法修習の代替たり得ているのかとの観点が重要である。

しかし、以下のとおり、教育の内容、結果(司法試験合格率)のいずれの面においても、法科大学院の教育力の乏しさが明らかとなっており、司法修習の代替とはなり得ていない。


 法科大学院での教育の内容については、「最終取りまとめ」において、法科大学院での「ソクラティックメソッド等による双方向性の議論を重視した授業」が、「優れた教育」の実践例として取り上げられている等、一部には、工夫された授業の存在が報告されている。

しかし、他方、法曹養成制度検討会議では、法科大学院の授業を担当する教授の中には、法体系をわかりやすく説明する指導を怠って、自らの興味の範囲に極端な比重を置く教授が存在することも報告されている。


 また、法科大学院での教育の結果(司法試験合格率)について検討してみると、平成24年度司法試験における合格率は、予備試験合格者が68.2%であったのに対し、法科大学院修了者は25%に過ぎなかった。


(3)法曹志望者の負担が過大であること

 法科大学院制度発足前、法曹志望者は、全国各地で各自のペースで勉強し、各自の必要に応じて、各自の自由な判断で、参考書や予備校の授業料等の費用負担をしていた。また、受験資格に制限はなく、大学を卒業しなくても司法試験を受験することができた。

ところが、法科大学院制度発足後、法曹志望者は、原則として大学及び法科大学院を修了しなくてはならなくなり、その学費を負担することを余儀なくされた。しかも法科大学院が大都市に偏って設置されたため、法曹志願者の多くが、法科大学院の設置された大都市での生活を余儀なくされた。

平成24年の総務省の調査によると、法科大学院課程修了者のうち、学費及び生活費も含めて法科大学院に入学してから修了するまでに600万円から800万円を要した者が26.8%、800万円から1000万円を要した者が25.2%、1000万円以上を要した者が17.1%となっている。法曹を目指す者は、このような極めて高額な経済的負担を余儀なくされている。


   イ また、上述のとおり、法科大学院制度発足前であれば、法曹志望者は、大学卒業前であっても司法試験を受験することが可能であった。

ところが、法科大学院制度発足により、司法試験を受験するためには、原則として、4年間かけて大学を卒業し、さらに2年間から3年間をかけて法科大学院を修了することが求められることになった。

法曹志望者にとっては、この時間的負担も、無視できない重大なものである。


(4)社会人入学者数の激減

社会人を含め多様なバックグラウンドを有する人材を多数法曹界に迎え入れることは司法制度改革の重要な課題であり、法科大学院制度の目的の一つでもあった。

ところが、法科大学院に入学した社会人は、平成14年の2792人(入学者数全体の48.4%)から年々減少し、平成23年には764人(入学者数全体の21.1%)にまで激減した。

社会人の入学者が減少した背景には、第1に、上述した経済的及び時間的負担の問題があると考えられる。

第2に、法科大学院発足当時、法科大学院修了者の司法試験合格率が80%程度に至るといわれていたにもかかわらず、実際には20~30%の合格率で推移したことがあると考えられる。合格率の低迷により、社会人は、仕事を辞めて法科大学院を目指す決断ができなくなったのである。なお、仕事を辞めざるを得ないという社会人のリスクは、夜間学部が充実していれば回避できるはずである。しかし、夜間学部を設けた法科大学院は、ごく一部に留まった。

第3に、弁護士数の増加による就職難などのリスクを考慮して、法曹への道を断念した社会人も存在すると思われる。

(5)法科大学院志望者数の減少と予備試験受験者の増加

法科大学院の入学者は、初年度の平成16年度は5767人であったが、その後減少を続け、平成25年度には2698人にまで減少した。これに対して、平成25年度には、法科大学院を修了せずに司法試験の受験資格を得られる予備試験の出願者が1万人を超えた。

予備試験出願者数と法科大学院入学者数とが逆転したことは、法科大学院が法曹養成の機関としてもはや機能していないことを示している。

(6)小括

以上のとおり、法科大学院の存在意義は失われているのであるから、法科大学院の修了を司法試験の受験資格とすることの正当性も失われているというべきである。

したがって、直ちに法曹養成制度を検証するとともに、それまでの間、司法試験の受験資格から法科大学院修了の要件を削除すべきである。また、その間、司法修習の期間を、法科大学院制度発足前の期間に戻すことも検討されるべきである。



3 司法試験受験の回数制限は完全に撤廃すべきであること

「最終取りまとめ」では、受験回数制限制度を存続させることを前提として、法科大学院の修了又は予備試験合格後5年以内に5回まで受験できるように、その制限を緩和すべきであるとした。

しかし、そもそも、受験回数制限そのものに、合理性が認められない。

「最終取りまとめ」は、受験回数の制限が「受験者本人に早期の転身を促し、法学専門教育を受けた者を法曹以外の職業で活用を図るための1つの機会ともなる。」とするが、そうした転身を決断するかどうかは、個人の自己決定権に属する問題であり、国が介入すべきものではない。



4 司法修習生に対する給与の支払いを復活させるべきであること

「最終取りまとめ」は、貸与制の存続を前提としつつ、①実務修習開始時における転居費用の支給、②司法研修所敷地内の寮への入寮要件の緩和、③修習専念義務の緩和など一定の配慮をしている。

しかし、「貸与制」の下では、法科大学院の学費等の費用に加えて司法修習中の生活費等の負担に耐えられる経済的に恵まれた者だけが法曹資格を取得できることになりかねない。かかる過大な経済的負担は有為な若者に法曹への途を断念させる結果を招きかねず、司法そのものを脆弱化させかねない。良質な法曹に支えられている司法制度は、法の支配の確保と国民の基本的人権を保障するための重要な社会的インフラである。したがって、法曹養成は国が責任を持って行なうべきものである。弁護士を含む法曹が社会正義実現の担い手として地域社会の各方面で公共的な役割を果たしていることも、国家国民の負担により養成された者としての自覚の現れである。

したがって、平成25年3月26日に当会が発表した「司法修習生に対する『給費制』の復活を求める会長声明」のとおり、司法修習中の生活費等の必要な費用を国費から支給する「給費制」を復活させるべきである。


5 司法試験の受験資格から「法科大学院課程修了」の要件を削除するまでの間、予備試験合格者と法科大学院修了者との間の司法試験合格率が同程度になるまで予備試験合格者を増加させ、司法試験受験の機会を与えること

「最終取りまとめ」は、「予備試験の結果の推移、予備試験合格者の受験する司法試験の結果の推移等について必要なデータの収集を継続して行った上で、法科大学院教育の改善状況も見ながら、予備試験制度を見直す必要があるかどうかを検討すべき」とする。

問題は、予備試験制度の見直しの方向性である。

政府は、平成20年3月25日付け閣議決定において、「法曹を目指す者の選択肢を狭めないよう、司法試験の本試験は、法科大学院修了者であるか予備試験合格者であるかを問わず、同一の基準により合否を判定する。また、本試験について公平な競争となるようにするため、予備試験合格者数について」「予備試験合格者に占める本試験合格者の割合と法科大学院修了者に占める本試験合格者の割合とを均衡させるとともに、予備試験合格者数が絞られることで、実質的に予備試験受験者が法科大学院を修了するものと比べて、本試験の機会において不利に扱われることのないようにする等の総合的考慮を行う」と決定した。

ところが、平成24年の司法試験の合格者中、予備試験合格者の合格率は68.2%、法科大学院修了者の合格率は25%であった。これは、予備試験合格者数が絞られたからに他ならず、上記閣議決定に反している。法曹の給源の多様性の確保及び公平の原則からも、少なくとも予備試験合格者の司法試験合格率と法科大学院修了者の司法試験合格率の不均衡が是正されるよう、予備試験合格者数を増加させるべきである。


  6 結語

よって、当会は、以上のとおり、法曹養成制度の改善を国に対して要請する。

以  上

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